■ルネ・ラリックの技法解説■
ルネ・ラリックは、主としてカリ・ガラスとクリスタルガラスの中間にあたる無職透明のガラス(注釈1)を使った。量産的には、青みを帯びた乳白地の「オパレッサン」ガラス(注釈2)(英語:オパルセントグラス)が開発され、発表されるやいなや世界的な人気を博した。
又、紫、鮮やかな青、濃い赤、エメラルトグリーン、サフラインイエロー、アンバーなどの色ガラスを使った作品もある。ガラスの表面を彩る着色法としては、「パチネ」という技法が使われた。
全ての作品は、ルネ・ラリックが、既存のガラス製造法を自ら改良近代化して生み出したものである。
注釈1 |
通常クリスタルガラスは相当量の鉛を含んでいる。ラリックの使用したガラスは、鉛の含有量が通常より少なく、半(セミ)クリスタルと呼ばれた。このガラスは半熔融状態で加工しやすく、型に付着しにくい表面仕上げが容易な程の性質を整え比較的安価なこともあり、大量生産に向いていた。
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注釈2
オパルセント |
オパールのような輝きがあることから、オパレッサンと呼ばれるこのガラスは、燐酸塩、フッ素、アルミナなどによってガラスを半濁状態にしたものである。それにコバルトが微量加わると、ブルーがかった光沢を得る。半濁の度合いは、厚みのあるレリーフ部分のように表面と内部の冷却温度の差が大きいほど強く、薄いところは透明に近くなる。
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■成形法■
鋳造法 |
ラリックは、宝飾デザイナーであった時、宝飾細工の小さな装飾モチーフに鋳造法によるガラス装飾を用いていた。これは、やがて吹きガラスで作られた作品に熔着して、その装飾にも使われるようになった製造は、耐火粘土の鋳型に、溶けたガラス種を流し込み、鋼鉄製のローラーや木製のこてで型になじませる。温度が下がった時点で、鋳型がこわされ、できあがったガラス(内部が空洞でなく詰まっている)が取り出される。
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プレス成形 |
この方法は、鋳造法を機械化した物である。小像、彫刻、花瓶の把手や耳、グラスの脚など、鋳造法と同じように、内部に空洞のない形を作るのに使われる。独立した作品となるものもあれば、他の技法で作られた花瓶や大型の作品の一部として、熔着して使われる物もある。鋳型は鋳鉄製または加鋼鋳鉄製で、何度も使用される。鋳型を壊さないでガラスが取り出せるよう、金型は2つまたは数個の部品に別れている。圧搾空気を利用したピストンを使い、鋳型の細かいへこみのすみずみまでガラス類が行き渡るようにする。ガラスは鋳造法の場合よりも低温度で鋳型から外される。
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型吹き成形 |
風船のような、内部に空洞のある作品に使われる成型法。使用される鋳型は加鋼鋳鉄製の金型で、幾つかの部分に別れている。仕上がり時のガラスの分量にあわせてガラス類を流し込み、高圧の圧搾空気でガラスを吹き、作品の模様をつかさどる鋳型の凹部にガラスをまんべんなくゆきわたらせ、鋳型の内部に空間を作り出す。圧搾空気による機械吹きは、手吹きに較べ、作品の仕上がりが均一で、満足のいく結果が得られる。また、機械吹きは、商品の品質を均一化することに役立つばかりでなく、空気圧から作品の動作に要するガラスの分量をあらかじめ割り出す事が可能で、製造スケジュールをきめ細かく管理する事ができる。 |
シール・ペルデュ
(蝋型鋳造法) |
ルネ・ラリックは量産品と並行して、一点製作の作品や最大6点までの少数生産の作品を、生涯に渡り作り続けた。これらの作品の製作には、ブロンズの鋳造の方法をそのまま応用した「シール・ペルデュ」(蝋型鋳造法)という技法が使われた。製法は、まずラリックの手によって作られた蝋型原型から、職人が耐加粘土の雌型鋳型を起こす。内部が空洞でない作品の場合は、そのままガラス種を流し込むと、蝋が溶けてガラスがゆきわたり鋳型の模様はもちろんのこと指紋まで忠実に写し取るのである。作品の内部に空洞があるものは、雌型の内側にガラスの厚みに相当する暑さの蝋を塗り、耐火粘土で中子(なかご)を作って、ガラス種を流し込んだときにガラスが中子の形にそってまわり、空間ができるようになる。徐冷後は耐火粘土の鋳型から抜き出し、中子を壊して、できあがった作品を取り出す。
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■徐冷後の仕上げ■
徐冷窯を通したのち作品は鋳型をはずされ、室温のなかに戻される。そのままの状態で最初の検査がおこなわれ
不良品が外される。検査を通過したものだけが仕上げにまわされるのである。まず、鋳型の繋ぎ目が、グラインダーで平らにされ、研磨用のダウラインダーで磨かれる。次に、口の部分と底が平行になるように平らに削られる。
光沢仕上げ |
仕上げには、光沢仕上げと艶消しの2種類がある。光沢仕上げの場合は、コルク盤をつけたグラインダーで研磨する。
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艶消し仕上げ
サチネ
サンドブラスト |
「サチネ」(絹のサテン織を表すことばからきている。 サテンのような柔らかい光沢を感じさせる艶消し)沸化水素に硫酸を加えた液に作品を数時間浸すことによって得られる。きめの荒い石目艶消しには、光沢を残したい部分に
覆いをして、金剛砂を圧搾空気でガラスの裏面に噴射する「サンドブラスト」が用いられた。サチネの場合も光沢を残したい部分を瀝青で覆ったのち、溶液のなかにガラスをつける。 |
パチネ |
パチネ(古色をつけるという意味の言葉からきている。もともとブロンズ彫刻の仕上法に使われた言葉、ガラス工芸ではエミール・ガレが古銅や古金属の感じを表す失透現象を考案してパチネと名付けていたが、ラリックのそれとは
全く異なる。) 浮き彫り装飾のディテールを浮き立たせるために使われる彩色法である。パチネとは、一般にアラビアゴムを主体とした液に顔料を溶かした物で、顔料を含んだ溶液は、ガラスに染み込むのではなく、乾燥後ガラス素地の表面にしっかりと固着する。
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エナメル彩色 |
作品の一部を彩色する方法である。筆でエナメルを塗り、低温で焼き戻すと、エナメルはガラスの表面に焼き付けられて変色することがない。
※ルネ・ラリックのガラス作品の装飾は、すべて鋳型による。したがって、グラインダーによる手彫りが、装飾法として使われた例は原則としてみあたらない。
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サイン |
サインには、作品が仕上がったのちに、職人がグラインダーで入れた物と、鋳型のなかに彫り込まれたものとがあり、後者にはレリーフ状のものと陰刻されたものがある。鋳型によるサインが不明瞭な場合は、最終チェックをおこ
なう担当者の指示によりグラインダーでサインが入れ直された。
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